無言調停

その惨めな最後の戦闘では
全ての動詞が弾丸となり
全ての名詞が火薬となった
歯切れの良い間投詞だけが
鋭い破裂音となってそこら中に響いた


塹壕で交わされる会話は
たちまちのうちに解読不能の暗号と化し
感情は乱数に崩れゆく−そして
US(みかた)はいながらにしてTHEM(てき)に
変貌していった


その場にいる誰もが
一人称(じぶん)という脆い要塞を守ることで精一杯で
句読点さえ思案の外
ただひたすら舌を回転させる他なかった


やがて大気が完了形に染め抜かれ
腕も脚も背も腹もただのITに還元されたが
無数の口だけは数日の間
いたるところで動き続けていた


文法の戦争はこの戦闘を持って終結した


休戦条約は
だから
全くの沈黙の中で行われた


誰一人言葉を発することのない
そのセレモニーを
後世の人々は
「無言調停」と呼んだ