ぼくが並んでいる列の先頭から五人目に、小柄なお年寄りの女性が並んでいた

ぼくが並んでいる列の先頭から五人目に、小柄なお年寄りの女性が並んでいた。
いくぶん腰も曲がって八十歳近くに見える彼女は、両方の手に大きな紙袋を下げている。
ときおり荷物を床へ置いてはしゃがみ、深い息をつく。その後ろに並んで、
小声で喋ったり笑ったりしている二人の少女は中学生ぐらいだ。そこから四人後ろがぼくだった。
構内放送が電車が入ってくるから白線まで下がるようにと言い、
列が後ろへ動いてお年寄りの女性がよろける。
ぼくは、前へ行って彼女の荷物を持ってやろうかどうか迷いつづけた。満員の人を乗せた電車が入ってきてとまる。
しかし降りた客は少なく、電車の窓越しに見える空席はほんの三、四人分程度だ。
ホームにいた客が乗りはじめ、お年寄りの女性の後ろにいる少女の一人が、
いきなり前のお年寄りを押しのけるようにして前へ出て並んだ。
彼女は前の人につづいて小走りに車内へ入ると、素早く人々の間をすり抜け、一つだけあいていた席へ座った。
ぼくは眉をひそめて舌打ちした。なんて行儀の悪い女の子だろうと腹が立ったのだ。
紙袋を引きずるようにして車内へ入ったお年寄りの女性が、扉のそばの床へ荷を置いて保護棒にしがみつく。
肩で大きく息をしている。席をとった方の少女が中腰に立ち、
あとから乗った少女に向かって片手を上げて手招きした。笑っている。
あとから乗った少女は小さくうなずくと、背を丸めて保護棒につかまっているお年寄りの女性に「席、ありますから」と言った。
そして片手で二つの紙袋を持つと、もう一方の手でお年寄りを抱きかかえるようにして客を掻き分けて歩きだしたのだ。
席に座っていた少女が立ち、そこへお年寄りの女性を座らせた。荷物も倒れないように足元へ置く。
お年寄りが腰を九十度に折って礼を言っているのに、少女たちは顔を真っ赤にして逃げるように小走りにこっちへきた。
彼女たちはぼくが立っている連結器のそばへくると、肩で大きく息をしながら吊り革につかまった。
ぼくは彼女たちに向かって何か言いそうになるのを、やっとこらえた。